両親が離婚し、母親と暮らしている13歳の少年にとって、その最愛の母が癌に侵され次第に死を予感させられてゆくという現実を受け入れてゆくことなど、なんと難しいことだろう。その悲しみと恐怖におののき、抗いながら、少年はそれを恐ろしくも一縷の望みを託す怪物と対峙するという方法で自分の心に向き合おうとした。特に愛する人を失うということの時間の中に蓄積されていくどうしようもないやり場のない感情を整理できないまま、あらゆる思いや理不尽さや矛盾に押しつぶされそうになりながらも、時に激しく咆哮し、破壊と暴力に姿を変えてでも必死に何かを知ろうとする姿は熱く胸に迫るものがあり、息が苦しくなるような痛みがリアルに伝わってもきた。
それは原作者のシヴォーン・ダウドが実際に癌でなくなる前に書き残していたものをパトリック・ネスが意志を次いで作品に仕上げたこと、また訳者の池田真紀子の力量によるところも大きいのではないか思う。
少年が毎晩見る悪夢や迫りくる怪物の出現というシチュエーションは一見、ホラーファンタジーのようだが、まったくそうではない。物語というものが作者の現実からかけ離れたものではなく、心の中の目に見えないものに耳を澄ましたり、それが色や形として現われてくるからこそ、そこに本当の物語がうまれる瞬間があるのだと思う。
この作品は2011年の青少年読書感想文全国コンクールの中学生の課題図書だったが、今、大人が読んでも十分に深く読み応えのあるものだ。人の持つ多様な感情や想像力の洪水の中で、良くも悪くもそのすべてが自分や他人も形作っているということを改めて認識しうる物語になっていると思う。
それは原作者の遺言のようにも受け止められるのだ。
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